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小説 マーセル・セロー著 村上春樹訳 『極北』




この小説は、作者が2000年、2004年にチェルノブイリを訪れ、
居住禁止区域でたくましく生きる女性に出会ったことから着想を得たそうだ。
つまり、2011年03月11日以前ということだ。

かつて栄華を誇った文明が滅びてしまった近未来、奴隷として囚われた
主人公・メイクピースは放射能と病原菌に侵された街で
必要な物資を手に入れて戻ってくるよう命令されるが、
脱走に成功し故郷を目指す。

<ここからネタバレ!>

物語の展開は息も吐かせぬというか突拍子もないというか、
絶望して自殺を図ったり、奴隷としてさらわれたり、脱獄計画を練ったり
庭を手入れしたり、復讐を成し遂げたり子供を生んだりと忙しい。

荒廃した世界でのサバイバル能力、なおも人々を苦しめる放射能汚染、
よそ者を排斥しようとする人々と受け入れようとする人々の対立と、
現代の我々が抱える病理を扱っている。

入植地に押し寄せるよそ者を必要以上に恐れるのではなく、愛を持って接するべきと
正論を主張する主人公の父親が、実は自分の言葉に縛られて押しつぶされそうになっていた。

裏で自宅を襲撃させ、それを理由に入植地を離れようと画策したが、
自分の娘の顔に一生残る傷を負わせ、将来を奪ってしまったというのが
読んでいて実に辛かった。
人間の側面を立体的に捉えることで人物造形に奥行きを与える、巧みな手法だ。


<ここまで!>



表紙のデザインは、小説のラストに描かれた希望を表現しているのかな?





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[ 2012/07/04 23:15 ] 本・マンガ | TB(0) | CM(0)

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