本 竹田青嗣 『ニーチェ入門』




・社会主義の実験はなぜ失敗に終わったか。これについては、百人百様の議論が出ているが、
 一般的な直観はおそらく一致している。社会主義が例外なく極端な「権力ゲーム」の
 社会になったということである。社会主義は、資本主義のいわば「金儲けゲーム」を
 取り払ったその代わりに、専制的な「権力ゲーム」の社会を作り上げてしまったのだ。

・人間は要するに、自分のうちのさまざまな欲望によって苦しむ。これは誰でも知っている
 ことだ。苦しみがあまりに大きいと、わたしたちはしばしばこの欲望こそが矛盾(苦しみ)の
 根源なのだから、いっそ欲望そのものがなくなれば矛盾もなくなる、と考える。先にも
 言ったように、仏教の考え方もこれに近い。「煩悩」こそが一切の苦しみや矛盾の
 源泉であり、したがって「色即是空」と観じて「煩悩」を消し去れば人間は救われるという
 考え方である。しかし、ニーチェは『悲劇の誕生』においてこの考え方にはっきりと
 反対しているのである。

・「悲劇は『諦念』を教えるものではない」(『権力への意志』)

・キリスト教の「隣人愛」は共同体の仲間だけではなくあらゆる人々を助けよ、と
 しているが、これは「他人のためを思うことが良いことであり、自分のためを
 思うのは悪である」という極端な「禁欲主義」を創りだした。
 つまり悪いことの本質は「他人を害すること」にあるので、個々人が「自分の快や
 悦びを求めること」自体にあるわけではない。

・この「生を絶対的に否定しようとする意志」、これこそキリスト教のニヒリズムの
 本質をこの上なく示すものだ。

・ルサンチマンを持たない人間は、現実の矛盾をいったん認めた上で、自分の力に
 おいて可能な目標を立て、あくまで現実を動かすことを意欲する。しかしルサンチマンを
 抱いた人間は、現実の矛盾を直視したくないために、願望と不満の中で現実を呪詛し
 これを心の中で否認することに情熱を燃やす。こうして彼は、動かしがたい現実を
 前にして「敵は悪い」という価値評価を作り、さらにまた「汝の敵を愛せよ」という
 反転した道徳を生み出す。そしてそれはやがて、どこかに「本当の世界」があるはずだと
 いう「信仰」に至りつくことになる。

・伝統的な「真理」の観念はこのように誤った推論に還元できる。どこかに「ほんとうの世界」が
 あるはずだ、どこかに「完全な世界」、「矛盾のない世界」があるはずだ。このような推論を
 支えるのはつねに「苦悩」を否認する心性にほかならないのだ。

・「徹底的ニヒリズム」とは、この世を越えたところに何か「神的なもの」あるいは「神聖なもの」
 などはいっさい存在しない、という確信である。(中略)
 
 天国も地獄も作り話にすぎない。だから、「彼岸」もなければ「神聖」もない。
 だからまた、「よいと悪い」は人間の社会が考え出したとりきめにすぎない。
 するとじつは「一切は許されている」のではないか…。これまでの世界像から
 超越者を排除すると、ここまでゆきつかざるをえないのだ。

・「超人」思想は、文化に対する一つの本質的洞察なのであって、なんらかの理想を
 制度的に実現するという「社会革命」の思想ではないからだ。

・つまり、「弱者」にとってほんとうに重要なのは、自分より「よい境遇」にある人間に対して
 羨みや妬みを抱くことではなく、より「高い」人間の生き方をモデルとして、それに
 憧れつつ生きるという課題である。また「強者」にとって重要なのは、他人の上にあるという
 ことで奢ったり誇ったりする代わりに、自分より弱い人間を励ましつつ、つねに「もっと高い、
 もっと人間的なもの」に近づくように生きるという課題なのである、と。

・つまり、「いつでも君の行為が普遍的に〈善〉であると言えるものであるように行為せよ」という
 カント的命法の代わりに、「永遠回帰」の思想は、「君の行為が、いつも無限の繰り返しとして
 そう欲されるべきものとなるように行為せよ」という命法として提出しているというのである。

・世界と歴史の時間にはどんな「意味」も存在しないと。そして、それにもかかわらず君は
 生きねばならず、したがって「なんのために」ではなく「いかに」生きるかを自分自身で
 選ばなくてはならない。

・人間の世界は矛盾に満ち、苦悩に覆われ、危険きわまりないものである。(中略)
 それにもかかわらず、この世界の「あるがまま」を否認し打ち消そうとし反動へと向かうより、
 それを是認しそのようなものとして世界に立ち向かうことの方がいつでも必ず「生」にとって
 よい結果を生むのだ、と。


読んでいて、立川談志の「よく覚えておけ。現実は正解なんだ」という言葉を思い出す。
自らの欲望を全否定しない、永劫回帰は決して諦念ではない。



 
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[ 2013/07/14 21:27 ] 本・マンガ | TB(0) | CM(0)

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