本 岡檀 『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』




・研究の発端は、戦争被害者(抑留されたり慰安所へ送られた人々)の体験について
 聞き取り調査を行ったところ、徐々に癒やされた人といつまでもトラウマに苛まれ続けている
 人との違いは、戻って来た人々を周囲の人間がどのような態度で向かい入れたかによって、
 苦しみの度合いが大きく違っていたことによる。

・内閣府の白書によれば、日本人の自殺の動機でもっとも多いのが「病苦・健康問題」、
 ついで「生活苦・経済問題」、これら二つで70パーセントを占めている。自殺の動機とは
 すなわち、自殺危険因子でもある。

・調査により、自殺の少ない町ではそもそも自殺危険因子が少ないという仮説は成り立たない
 ことがわかった。そこで第二の仮説「自殺予防因子」が存在するのではないか、と
 考え調査を行った。

・他の類似組織の多くは閉鎖的構造を作り上げ、メンバーの均質性を高めることによって
 統制という機能を強化している。これに対し「朋輩組(ほうばいぐみ)」は、
 ミニマムルールによって弾力性の高い構造を維持し、開放的で風通しがよく、
 来るものは拒まず、去るものは追わない。その結果として、メンバーたちの組織に
 対する考えやかかわり方、忠誠心などは十人十色となっているのだが、
 あえてそれらを是としている様子がうかがえるのである。

・確かに海部町では、主体的に政治に参画する人が多いという印象がある。
 自分たちが暮らす世界を自分たちの手によって良くしようという、
 基本姿勢があるように感じられる。その分、行政に対する注文も多く、
 ただしいわゆる「お上頼み」とは一線を画している。(中略)

 では、住民の半数以上が政府に対し無力感を抱えているというA町ではどうか。
 住民や行政担当者に聞いて回ると、A町では「お上頼み」の傾向が非常に強いという。

・「病、市に出せ」

 「病」とは、たんなる病気のみにならず、家庭内のトラブルや事業の不振、
 生きていく上でのあらゆる問題を意味している。そして「市」というのは
 マーケット、公開の場を指す。(中略)同時のこの言葉には、やせ我慢をすること、
 虚勢を張ることへの戒めがこめられている。

 悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思い切ってさらけ出せば、妙案を授けて
 くれる者がいるかもしれないし、援助の手が差し伸べられるかもしれない。
 だから、取り返しのつかない事態にいたる前に周囲に相談せよ、という考えなのである。

・地縁血縁の薄い人々によって作られたという海部町の歴史が、これまで述べてきた
 独特のコミュニティ特性の背景にあると言いたいのである。

・つまり、話題(いじめの対象に対する噂や批判)が盛り上がろうとするときに、
 水を差す、話の腰を折る者が集団Bにはいるのである。考えようによっては
 かなりKYな-空気を読まない人たちであるが、こうした人々のことを、私は
 ひそかに「スイッチャー(流れを変える人)」と呼んでいる。

 集団が同じ方向を向き、一気にその方向へ進む。こうした状態は力を集約し
 増幅させていくには有効だが、ネガティブな方向にも同様に作用する。
 インターネット上で、ある対象への誹謗中傷が殺到する状態-いわゆる
 「炎上」がその典型といえよう。まさにネット「炎上」は、水を差して
 クールダウンさせる者が不在であること、群衆が一気に同じ方向へと
 雪崩を打って進むことによって起こる。その意味において、集団は均質であるより、
 異分子がある程度混ざっているほうがむしろ健全といえるのかもしれない。

・弱音を吐かせるリスク管理術
 1. まず助けを求める人たちの受け皿を用意する。
 2. その受け皿がきちんと機能し、良い結果が得られたと成功体験が
   共有される。
 3. 助けを求める行動(援助希求)自体が肯定的にとらえられるメッセージを
   社会が発信する。
 4. これらを言葉でなく態度、実践によって人々に訴える。

・海部町の人は、他地域の人に比べ、世事に通じている。機を見るにつけ敏である。
 合理的に判断する。損得勘定が早い。頃合いを知っていて、深入りしない。
 このほかに愛嬌がある、という表現を用いた人がいたが、これは言い得て妙であって、
 私も同感だった。(中略)

 海部町の人々は、人間の「性」や「業」をよく知る人々である。

・「いかにしてこの世から自殺を減らすか」という命題には、頭を抱えてしまう
 人もいるかもしれないが、「どのような世界で生きたいかと思うか」という
 問いかけに対しては、自分なりの答えを必ず出せるはずである。

・自殺希少地域である海部町では、隣人とは頻繁な接触がありコミュニケーションが
 保たれているものの、必要十分な援助を行う以外は淡白なつきあいが維持されている
 様子が窺えた。
 対する自殺多発地域A町では、緊密な人間関係と相互扶助が定着しており、
 身内同士の結束が強い一方で、外に向かっては排他的であることがわかった。
 
 二つのコミュニティを比較したところ、緊密な絆で結ばれたA町のほうが
 むしろ住民の悩みや問題が開示されにくく、援助希求(助けを求める意思や行動)が
 抑制されるという関係が明らかになった。

・海部町は他との比較で自分が「幸せ」と感じている人の割合が一番低く、
 「幸せでも不幸せでもない」と感じている人の割合が一番高い。

・コミュニティの中で、住民たちが多少の我慢や犠牲を引き受ける代償として、
 のちにより大きい見返り-たとえば危機回避など-を手に入れる処世術、
 つまり「損得勘定」が海部町の人々の行動原理である。

・第三章で述べたとおり、海部町の人々は、人間の性や業をよく知る人々である。
 いかに立派な考えであっても、ただ教条的に諭したのでは人々の心に届きにくいと
 いうことを、彼らはよく知っていた。そこで、住民たちにある行動をとってほしいと
 思うときには、彼らの心が動くようなインセンティブ(誘因、動機づけ)を
 用意したのではなかろうか。


日本で自殺の発生率が極めて少ない、徳島県旧海部町。
その自殺予防因子を調査し研究した博士論文を元にした本。

他の地域との比較により、海部町の住民にはいろんな人がいて良いと多様性を享受する、
人物本位主義を貫く、「どうせ自分なんて」と卑下しない、
「困っています。助けて下さい」と周囲に言える、
お隣りとは助け合うが深入りしないゆるやかな連帯といった特徴が見られた。

これらはコミュニティ内の問題をいわば大火災になる前、
ボヤの段階で消火してしまおうという損得勘定と合理性から来ている。


敢えて言う、絆なんてクソ喰らえ。


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[ 2013/12/31 15:26 ] 本・マンガ | TB(0) | CM(0)

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